第十日目。
午前10時、《青》と写真家は西のカトリック教会でイケノさんと待ち合わせする。
写真家は《青》のいない日曜にミサに参列したが、《青》にとっては初めての場所なので、イケノさんに教会を案内してもらう。
この教会は、信徒を探してフランスからこの土地にやってきた神父によって、明治24年に始められた。
《青》はイケノさんと一緒に近くの城跡を歩き、彼女の物語に耳を傾ける。
M市で生まれ育ったイケノさんは学生時代、太平洋側の海のある街で暮らしたことがある。
その時、初めて見る遠浅の海の色に驚いたという。
イケノさんは自分の信仰について、話をしてくれる。
《青》は、この西の教会と同じ神父さまによってつくられた、そしてイケノさんのご先祖様にゆかりのある、古い古い天主堂をもつカトリック教会を訪れてみたい、と思う。
それはさらに西の、もうひとつのM市にある。
日の暮れる頃、《青》と写真家は再び教会を訪れ、ユキコさんと会う。
彼女は長く外国で暮らし、4人の娘たちを育て上げて、故郷であるM市へひとり帰ってきた。
《青》は彼女の話に耳を傾けながら、女性として生きることに思いを馳せ、自分はこの旅から戻ったら、どのように暮らしていくのだろうと考える。
だが、これといった答えは見つからない。
午後6時55分、FMラジオでは昨日の青の手紙が繰り返される。
《青》は目を閉じて、この街の一番高いところから見渡す、まだ見ぬ海の色を想像する。