第三日目。
午前10時、滞在している一軒家の家主が来て、ジャズのレコードを聴かせてくれる。
午後から、写真家が運転する車で「浮島」という呼ばれる地域に出かける。
このあたりは、かつて島だったらしい。
江戸時代に干拓で、いま《青》たちが滞在している市街地と地続きになった。
ふたりはお寺と神社にはさまれた、古びたカトリック教会を訪ねる。
建物の中にはモザイク画のマリア像と、木彫りの道行(みちゆき)の絵がかけられている。
《青》は十字架の道行を知っているだろうか?
川沿いの道を歩いて、東図書館に立ち寄る。
今月、新しく入ったのはこんな本や、こんな本らしい。
《青》と写真家は、興味のおもむくまま本を開く。
ときどき、隣の公園で起きていることに気をとられる。
午後5時12分、五老ヶ岳公園で日没を迎える。(※)
午後6時頃まで、カフェで頼んだクリームソーダをかき混ぜながら、暗い海を眺めてぼんやり過ごす。
午後6時55分、FMラジオで読まれる手紙に耳を澄ます。
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※大切なお知らせ
台風21号の影響で五老ヶ岳公園への道が通行止めとなったため、このシーンは以下に変更されました。
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午後3時30分、ふたりはさらに東へ向かう。
青葉山の裾野に沿って県境を越え、Tという地域へ海を見に出かける。
青葉山は京都と福井の県境に位置していて、「若狭富士」とも呼ばれる。
だが《青》たちの暮らすM市から眺めると、二つの峰がラクダのこぶのように見える。
何百万年も昔、太古の海底火山の噴火で、生まれた山だといわれる。
そのとき、この美しいリアス式海岸の湾も生まれた。
午後4時30分、「音海」という名前の波止場で対岸に原子力発電所を見つける。
午後5時12分、日没を迎える。
午後6時55分、海の見える場所に車を停めて、FMラジオで読まれる手紙に耳を澄ます。
この放送はインターネットでも聴くことができる。
《青》は暗い海を眺めながら、自分の言葉が、電波に乗ってM市のすみずみまで届く様子を想像する。国道を走る車のカーラジオや、どこかの家のキッチンに置かれた防水ラジオや、誰かの胸元に入れられたポケットラジオに自分の消息が届く様子を。
滞在先へ帰る途中、れんが造りのトンネルを見かける。
明日は朝が早いので、早めに布団に入る。